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宇都宮地方裁判所 昭和26年(行)6号 判決

栃木県安蘇郡赤見町大字赤見三一五三番地

原告

志賀ユキ

右訴訟代理人弁護士

佐久間渡

同県佐野市

被告

佐野税務署長

大蔵事務官

小幡琢也

右指定代理人大蔵事務官

中沢直

吉田保之

法務府事務官

堺沢良

右当事者間の昭和二六年(行)第六号所得金額及所得税額更正決定取消請求事件につき当裁判所は次のように判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として被告が原告に対しなした昭和二十五年六月二十日附昭和二十四年度分所得金額及び所得税額更正決定は之を取消す。訴訟費用は被告人の負担とするとの判決を求め請求原因として原告は織物の製造販売を業としておるものであるが昭和二十四年度の所得金額を六十二万円と確定申告をしたものである然るに被告は昭和二十五年六月二十日附通知書にて所得金額百二十八万円税額七十八万四百五十円也と更正決定したが右は違法であるから原告はその審査の請求をしたものであるが今に至るも審査の決定を見ないから更正決定の取消を受けるため本訴請求に及んだと陳べ被告の抗弁事実を否認し

立証として甲第一、二号を提出し証人藤沼源作小暮謙太郎清和和夫証言を援用し乙号証の成立を認めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実中原告が織物製造をなしおること確定申告及更正決定のあつたことは認めるが被告の更正決定は違法でない即ち(一)原告の所得税確定申告書に添付の収支明細書によると昭和二十四年中の総収入金額(織物消費税を含まない)二百七十七万一千八百三十五円、必要経費二百十五万一千八百三十五円で差引純益(所得金額六十二万円)でこれによると純益の総収入金額に対する割合(所得率)は二割二分三厘六毛であるところ同年中の取引高税申告による取引金額六百二十七万十四円でこれより昭和二十四年分織物消費税額五十四万四千六百八十六円を差引いた額五百七十二万五千三百二十八円に前記の二割二分三厘六毛の所得率を乗じた百二十八万百八十三円が所得金額であるべきだから被告は百二十八万円を原告の同年中の所得と更正したのであるなお他の方面から見ると一般に織物製造販売業においては売上金は手形小切手又は現金によつて決済され金融機関の手を経るのが通常であるから金融機関に対する預入の総額はその営業による売上金額とみることができる。本件については原告及その内縁の夫藤沼源作の株式会社足利銀行及株式会社群馬大同銀行佐野支店又は赤見支店の当座普通定期預金の受入数額は同二十四年中合計一千六十八万五千二百四十円であるからこのうち借入金口座振替等を考慮に入れ少くとも七百七十二万円が原告の営業上の売上によるものである。

又原告の資産は昭和二十三年十二月三十一日現在で百三十一万五千五百二十二円同二十四年十二月三十一日現在二百七十六万五百三円で百四十四万四千九百八十一円の増加、負債は昭和二十三年十二月三十一日現在で十六万二千円同二十四年十二月三十一日現在で三十一万八千七百四十六円で十五万六千七百四十六円の増加となつており結局資産の増加額から負債の増加額を差引いた金額百二十八万八千二百三十五円が原告の係争年中の所得となる訳であるから本件課税決定は之によつても裏付けられた適法の処分であつて合理的であるによつて原告の請求に応じ難いと陳べ立証として乙第一号証第二号証の一乃至十二第三、四号証を提出し証人上村新三の証言を援用し甲号証の成立を認めた。

理由

原告が織物製造販売をなしおること昭和二十四年度の所得金額を六十二万円と確定申告したが被告がこれを百二十八万円税額を七十八万四百五十円と更正決定したことは当事者間に争がない。よつて右更正決定が違法かどうかを審査するに成立に争のない乙第一号証第二号証の一乃至十二第三、四号証と証人上村新三の証言によると被告主張のように原告の確定申告に添付した昭和二十四年の収支明細書によると被告主張の収入支出及純益があることが記載されてあるからこれによると純益の総収入に対する割合は二割二分三厘六毛であること又被告の取引高税申告によると被告主張のように係争年度の取引金額六百二十七万十四円でこれより昭和二十四年分織物消費税額五十四万四千六百八十六円を差引いた額五百七十二万五千三百二十八円に右の二割二分三厘六毛の所得率を乗すると百二十八万百八十三円となることが認められる。原告は確定申告による所得しかなかつたように主張するが証人上村新三の証言によると原告の商業帳簿は遺脱等多く正確と言うことができないから被告の計算も合理性がないと言うことができないと思う。右認定に反する証人藤沼源作の証言は措信することができないし他に右認定を左右するに足る証拠はない。よつて原告の請求を理由ないものとして排斥し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決する。

(判事 真田禎一)

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